インドネシアコーヒーを語るうえで欠かせないのが、スマトラ式精製(Giling Basah)です。英語では「ウェットハル(Wet-Hulling)」と呼ばれ、世界的にも“インドネシア独自の精製方法”として知られています。本記事では、この方法が生まれた理由について解説しています。
スマトラ式精製(Giling Basah)とは?

スマトラ式精製(Giling Basah)とは、
通常のウォッシュド精製では、パーチメントのまま含水率を約10〜12%まで乾燥させてから脱殻します。しかしスマトラ式では、含水率30〜40%前後の段階で脱殻し、その後に生豆として追加乾燥を行います。
この“途中で殻を外す”工程こそが最大の特徴です。
なぜスマトラ式は生まれたのか?

① 高温多湿という自然環境
まず1つ目の理由としてスマトラ島をはじめとするインドネシアの産地は、赤道直下の熱帯気候。年間を通して湿度が高く、雨も多い地域であることがあげられます。
パーチメントのまま完全乾燥させようとすると、乾燥が長引く、カビのリスクが高まる、品質劣化がおきやすい 等の問題が生じてしまいます。※パーチメント・・・パーチメント(Parchment)とは、コーヒー豆を覆っている薄い殻(内果皮)**のことです。
そこで考えられたのが、
という合理的な方法でした。
② 小規模農家中心の生産構造
インドネシアのコーヒー産業は、小規模農家によって支えられているのが大きな特徴です。統計によると、インドネシアのコーヒーの90%以上は小規模農家によって栽培されており、農園面積の約96〜98%も小規模農家が占めています。多くの農家は1ヘクタール前後の小さな農地でコーヒーを育てており、大規模な乾燥設備や加工施設を持たないケースも少なくありません。このような生産構造も、スマトラ式精製(Giling Basah)が広く普及した背景の一つとされています。
そのため農家は、
・パルピング(果肉除去)
・洗浄
・短時間乾燥
までを行い、湿った状態のパーチメントを仲買人に販売します。

その後、仲買人や輸出業者が脱殻と仕上げ乾燥を行う。
この分業構造がスマトラ式を標準化させました。
③ 早期現金化という経済合理性
完全乾燥まで待ってから販売する場合、乾燥や保管のための時間やスペースが必要になります。
特に雨の多い地域では乾燥が長引くこともあり、その間は農家が収入を得られない状態が続きます。しかし、途中段階の湿ったパーチメントの状態で仲買人に販売できれば、農家は収穫後すぐに現金化することが可能になります。こうした収入を早く得られる仕組みは、小規模農家が多いインドネシアのコーヒー生産において大きなメリットとなり、スマトラ式精製が広く普及する背景の一つになったと考えられています。

スマトラ式が生む味の特徴
スマトラ式精製は、一般的に次のような味わいを生み出すと言われます。
・酸味が穏やか
・重厚なボディ
・ハーブやスパイスのニュアンス
・アーシー(土のような)風味
代表的なのがスマトラ島産のマンデリンです。深煎りとの相性が良く、日本でも人気があります。また、生豆はやや青緑がかった色合いになることが多く、これもウェットハル特有の特徴とされています。
スマトラ式だからこそ生まれる独特の味わい
こうした風味は、スマトラ式精製の工程によって生まれると考えられています。
スマトラ式では、まだ水分を多く含んだ状態でパーチメントを取り除くため、乾燥の過程で豆が空気や外部環境の影響を受けやすくなります。この工程が、独特の重厚なボディや複雑な香りを生み出す要因の一つとされています。
その結果、一般的なウォッシュドコーヒーのような明るい酸味よりも、コクや深みを感じる味わいになりやすいのが特徴です。
特にスマトラ産コーヒーでは、ハーブのような香りやスパイス感、そして土を思わせるアーシーな風味が現れることがあり、これらは世界的にも「インドネシアコーヒーらしさ」として評価されています。

メリットとデメリット
次に、スマトラ式のメリットとデメリットについて以下に整理してみました。メリットとしては、説明した通り、高温多湿の環境へ対応できることや流通スピードなどがあげられます。その一方、スマトラ式ならではの懸念点も点在することがわかります。
つまりスマトラ式は、環境適応型のプロセスである代わりに管理難易度が高いという側面を持っています。
・高湿度環境でも対応可能
・流通スピードを確保できる
・独特で力強い風味を生む
・品質のばらつきが出やすい
・管理が難しい
・欠点豆が発生しやすい
スマトラ式精製(Giling Basah)が生まれた理由と魅力

スマトラ式精製(Giling Basah)は、インドネシア特有の自然環境と生産構造の中で生まれたコーヒー精製方法です。高温多湿の気候、小規模農家中心の生産体制、仲買人を介した分業流通、そして収穫後に早く現金化する必要性など、さまざまな条件が重なった結果、この独自のプロセスが定着しました。
もともとは環境に適応するための現実的な方法でしたが、その工程が結果的に重厚なボディやアーシーな風味といった、世界でも独特な味わいを生み出しました。インドネシアコーヒー、とくにマンデリンに感じられる深いコクの背景には、熱帯の雨と農家の知恵が息づいています。スマトラ式精製を知ることで、一杯のマンデリンの味わいも、より奥深く感じられるはずです。
是非皆さん、インドネシア伝統技法「スマトラ式精製(Giling Bsah)」コーヒーにトライしてみて下さい!




